ビットコインで雇われた匿名の7500人が「頭脳」となるヘッジファンド「Numerai」 – WIRED.jp

Home » 08金融 » ビットコインで雇われた匿名の7500人が「頭脳」となるヘッジファンド「Numerai」 – WIRED.jp
08金融, ヘッジファンド コメントはまだありません



ブロックチェーンと人工知能の技術を使って、クラウドソーシングで金融取引の「解」を生み出していく。「Numerai」(ヌメライ)と呼ばれる新しいヘッジファンドがいま、金融業界の常識を覆そうとしている。

TEXT BY CADE METZ

WIRED(US)

Numerai

IMAGE COURTESY OF NUMERAI

『WIRED』日本版とデジタルハリウッドが行う次代のビジネスパーソンのための教育プログラム「WIRED Business Bootcamp」。2017年、短期集中講座第1弾のテーマは「ブロックチェーン」。3月12日、あらゆるビジネスを変えゆく超破壊的テクノロジー、ブロックチェーンの基礎から応用までを学ぶ1dayプログラム「BLOCKCHAIN SUNDAY」を開催! SFC研究所・斉藤賢爾、インフォテリア平野洋一郎、GLOCOM高木聡一郎、弁護士・水野祐ほか、豪華講師陣とともにブロックチェーンビジネスの未来を探る。

リチャード・クレイブは29歳の南アフリカ人で、サンフランシスコでヘッジファンドを運営している。いや、正しくは彼は“運営”してはいない。彼は自分が名前も知らない何千人ものデータサイエンティストによって構築された人工知能(AI)システムに、運営を任せているのだ。

Numerai」(ヌメライ)と名づけられたスタートアップの看板のもと、クレイブと彼のチームは、ファンドの取引データを隠すテクノロジーを構築してから、データを匿名のサイエンティストからなる巨大コミュニティと共有した。暗号に似たメソッドを使い、この技術はサイエンティストらが会社の取引詳細を見られないようにしているが、同時に彼らが機械学習モデルを構築できるようにデータを編成している。モデルはデータを解析し、よりよい金融取引を学んでいく。

「わたしたちは、すべてのデータをコミュニティにわたしています」。資産管理会社で働くために南アフリカに渡航する前には、ニューヨーク州のコーネル大学で数学を学んだクレイブは言う。「ただし、わたしたちはデータを抽象的なかたちに変換しています。人々は、そのデータが何を意味しているものかを知ることなく、機械学習モデルを構築できるのです」

クレイブは、オンラインで募集したデータサイエンティストたちが何者なのかを知らない。サイエンティストへの支払いは、匿名性を維持できる(ブロックチェーン技術を活用した)デジタル通貨で行われる。「誰でもわたしたちに力を貸すことができます」と彼は言う。「彼らが働けば、わたしたちはビットコインで支払うわけです」

つまり、サイエンティストたちはクレイブのデータには関与しない。クレイブもサイエンティストたちには関与しない。そして、サイエンティストたちは暗号化されたデータを使って作業するため、その機械学習モデルをほかのデータに対して使うことはできない。だがクレイブは、この「ブラインド」こそが、よりよいヘッジファンドづくりにつながると信じている。

シリコンヴァレーのおとぎ話

ヌメライのファンドは、約1年間にわたって株式取引を行ってきた。彼は情報開示にまつわる規制のためにその詳細を明かさないが、ビジネスはお金になっていると言う。そして、データ解析を駆使して成功を収めたヘッジファンドのRenaissance Technologies(ルネッサンス・テクノロジーズ)創業者を含む有名投資家が、ヌメライにどんどんお金をつぎ込んでいる。クレイブの会社は、ニューヨークのヴェンチャーキャピタル企業Union Square Ventures(ユニオンスクエア・ヴェンチャーズ)が牽引するヴェンチャー基金の最初のラウンドを完了したところだ。今回はユニオンスクエアが300万ドル(約3.3億円)をヌメライに投資し、ほかからも300万ドルが追加された。

ルネッサンスやBridgewater Associates(ブリッジウォーター・アソシエイツ)などのウォール街で名の知れた会社や、技術系スタートアップのSentient Technologies(センティエント・テクノロジーズ)、Aidyia(アイディア)などのヘッジファンドは、ここのところ機械学習アルゴリズムの利用を探究している。だがヌメライは、これらのアルゴリズムをクラウドソーシングによってつくろうとしている。

ヌメライは、「シリコンヴァレーのおとぎ話」のようなことを行おうとしているといえるだろう。つまり、AI、暗号化、クラウドソーシング、そしてビットコインを使って、小さなスタートアップが金融業界を刷新するということだ。彼らの投資家のひとり、ユニオンスクエアのパートナーであるアンディ・ワイスマンは、これを「実験」と呼んでいる。

「この男はわれわれと思考回路が違う」

クレイブがヌメライのアイデアを思いついたのは、南アフリカの金融会社で働いていたときだ。彼は自身が働いていた会社名を明かさないが、この会社は資産管理ファンドで150億ドル(約1.7兆円)に及ぶ資産を運用しているという。彼はファンドを運用するための機械学習アルゴリズムの構築を手伝っていたが、それはそれほど複雑なものではなかった。

あるとき彼は、ニューラルネットワークを使ってもっと進んだ機械学習モデルをつくっている友人と会社のデータを共有したいと思ったが、会社はそれを許さなかった。しかし、そうした会社の姿勢がクレイブにアイデアを与えた。「この時から、データの暗号化の新しい方法を探り始めました。友人がデータを盗めないようにしながら、彼とデータを共有する方法を」

その結果が、ヌメライだ。クレイブは自分で100万ドル(約1.1億円)をファンドにつぎ込んだ。2016年4月、ヌメライはルネッサンス・テクノロジーズの設立メンバーのひとりであるハワード・モーガンを含むグループからの、150万ドルの出資を発表した。モーガンはシリーズAラウンドの際にユニオンスクエア、First Round Capital(ファーストラウンド・キャピタル)とともに再度ヌメライに投資を行っている。

間違いなく、これは型破りな方法である。クレイブが会社のミッションを語る短い動画を見れば明らかだ。彼は黒縁の眼鏡をかけて銀色のジャケットを着ている。動画の背景は『マトリックス』を思わせる。ワイスマンは語る。「この動画を見たときに思った。『この男はわれわれと思考回路が違う』とね」

ワイスマンが認めるように、問題はこのスキームがうまく機能するかどうかである。暗号化したまま計算を行うことを可能にする準同型暗号の問題は、データ解析の速度を著しく下げうるということだ。

「準同型暗号は、膨大な計算時間を必要とします」と、ヌメライと似た暗号構築を行うBaffle(バッフル)のCEO、アミーシュ・ディヴァチアは言う。「決断のスピードが求められるビジネスの世界で、どうやってこれを実現できるかが問題です」。ヌメライはこの速度問題を、ある暗号形態を用いることで解決しているとクレイブは言うが、ディヴァチアは速度問題に対応することでデータの機密性が下がる可能性があると忠告する。

パーティの音を消して

いずれにせよ、ヌメライはその成果を上げてきている。2016年秋、約4,500人のデータサイエンティストが25万の機械学習モデルを構築し、それは約70億の予測をファンドに対して提供した。2016年12月の時点では7,500人のデータサイエンティストが関与し、合計50万のモデルが280億の予測を行っている。

クラウドソーシングデータのマーケットプレイスである「Kaggle」では、データサイエンティストたちがどれだけ優れたモデルをつくれるかを競い合い、その過程で彼らは収入を得る。これを大規模に行うことが、ヌメライの戦略だ。統計と、「スタッキング」あるいは「アンサンブリング」と呼ばれる機械学習技術を通じて、ヌメライは無数のアルゴリズムを最良なかたちで組み合わせることができる。

データサイエンティストの大多数は匿名だが、なかには名前を明かしている者もいる。ニューヨーク・バッファローのデータ解析会社Multimodel Research(マルチモデル・リサーチ)で働くフィリップ・カリトンはそのひとりだ。彼は何年もの間、Kaggleでのデータサイエンススキルの競争を行っているが、ヌメライはもっと魅力的なオプションだという。「Kaggleは素晴らしいよ。そして、競争することは楽しい。でも、報酬を得ることができるのはいくつかのコンペのみ。それも、トップのほんの数名のみだ」と彼は言う。「ヌメライは、トップ100名くらいの競合者にかなり大きな金額を与えてくれる。最高だよね」

いまのところ、週ごとに100人のサイエンティストがビットコインを受け取っており、会社はこれまでに15万ドル(約1,600万円)をデジタル通貨で支払っている。ファンドの規模が10億ドルに到達すれば、毎月100万ドル以上がデータサイエンティストに支払われることになるとクレイブは話す。

暗号化されたデータで作業するのはより難易度が高いと、カリトンは話す。また、Fomoro Group(フォモロ・グループ)と呼ばれるデータサイエンスのコンサルティング会社運営を手伝うヌメライのメンバー、ジム・フレミングも同じ考えだ。だが、これは必ずしも問題ではない。結局のところ、機械学習を行うのは機械だからだ。

暗号化されていないデータで作業するときですら、カリトンはそれが実際に何を表すものなのかを知らないが、それでも彼はデータを機械学習モデルの構築に使うことができる。「暗号化されたデータは、パーティの音を消すようなものだね」とカリトンは言う。「もはや人々のプライヴェートな会話に耳を傾けることはないけれど、それでも(同じファンドで活動する)人々との親密さを感じることはできる」

リチャード・クレイブの希望通りに、大規模なデータサイエンティストのコミュニティ上でこのモデルが機能すれば、ウォール街ももっとヌメライの話に耳を傾けることになるだろう。



2016年10月11日発売の『WIRED』VOL.25は、「ブロックチェーン」特集。未来学者ドン・タプスコットによるメッセージから、スペインのアナキストであるルイス・アイヴァン・クエンデの肖像、岩井克人のビットコイン論、斉藤賢爾が語る5つの可能性、そして漫画家・西島大介による世界初(?)のブロックチェーン漫画まで、インターネット登場以来の、もしくはそれ以上の衝撃とも囁かれるブロックチェーンの未知なるポテンシャルを読み解く。さらに米国サイバー犯罪史上最も大がかりな捜査の果てに、ビットコインの存在を世に知らしめた闇サイト「Silk Road」事件の全貌を綴ったルポルタージュを20ページにわたって掲載する。特集の詳細はこちらから。


こんな記事もよく読まれています



コメントを残す