改革の10年 日本マイクロソフト会長 樋口泰行の「プロ経営者」論 – GQ JAPAN

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変化の激しいIT業界にあって、10年にわたり経営幹部として巨艦マイクロソフトの舵取りをになってきた樋口泰行氏。4月には、新卒で勤めたパナソニックに25年ぶりに戻ることでも話題になった。そんな樋口氏が語る「プロ経営者」論。

文・塚田紀史(東洋経済 記者)

当記事は「東洋経済オンライン」(東洋経済新報社)の提供記事です

米ヒューレット・パッカード(HP)と米コンパックの日本法人の統合を実行し、危機のダイエーを活性化させ、米マイクロソフト日本法人の変革をリードした「血の通った経営論」とは。『僕が「プロ経営者」になれた理由』を書いた日本マイクロソフト会長の樋口泰行氏に聞いた。

考えることを停止していた10年

樋口泰行(ひぐち・やすゆき)1957年生まれ。大阪大学工学部卒業後、松下電器産業入社。米ハーバード大学でMBA取得。92年ボストンコンサルティングに転じた後、アップル、コンパックコンピュータなどを経て、2003年日本ヒューレット・パッカード社長、05年ダイエー社長、08年マイクロソフト社長。15年から現職(撮影:今井康一)

樋口泰行(ひぐち・やすゆき)
1957年生まれ。大阪大学工学部卒業後、松下電器産業入社。米ハーバード大学でMBA取得。92年ボストンコンサルティングに転じた後、アップル、コンパックコンピュータなどを経て、2003年日本ヒューレット・パッカード社長、05年ダイエー社長、08年マイクロソフト社長。15年から現職(撮影:今井康一)

──「プロ経営者」なのですね。

自身ではプロとは思っていないが、結果的に内資、外資4社の社長を経験し、そんなふうに見えるかもしれない。ネーミングこそ“プロ”とされているが、自分としてはその時々に、その場所で十分できたなと思った頃、フラストレーションがたまってくる。こんなことをもっと勉強したい、あんなことがやりたいと。そして次の形が社内で実現できなかったから、会社を替えた。そんな感じが実情だった。

──内・外資を渡り歩ける経営者はあまりいません。

べたな日本企業と外資系との両方で働いた経験があるのは事実で、しかも期間的にはほぼ同じ分量だ。その間に米国で経営大学院に行ってMBA(経営学修士)を得たり、戦略系のコンサルティングファームに在籍したりもしている。

職に就いて12年経って日本企業を辞め、コンサルティングファームに入った。そこでは自分の頭で考えよとさんざん言われ、いかにそうしてこなかったかを思い知らされた。コンサルに行く前までの12年のうち2年は留学だったから、正味10年、考えることを停止していたようだ。その状態から、自分の頭で思考するのはものすごいストレスだった。筋肉が全部落ちていた状態から、4〜5年にわたり本格的な筋肉トレーニングをするような苦痛だった。

思考なしを15年や20年続けていたら、もう元には戻らなかっただろう。上司の指示に盲目的に従い、そのうち指示待ちになり、進言しても採用されないとあきらめる。特に単一事業の大組織の場合はまさに「歯車」。しかも同一カルチャー、終身雇用の中で一生勤めていると、その中の生態系しかわからない。

──その問題意識が、この本の執筆動機ですか。

以前から、キャリアをどう考えたらいいのか、若い人から質問されることが結構あった。私が職を転々としているのを知って、自身の閉塞感からアドバイスを求めてくる。内資、外資を経験し、会社を俯瞰できる立場の人間はどう考えるのか。若い人に対する「道しるべ」のようなことを言えたらいいと思った。

同じ戦略をずっと続けていても通用していた高度成長期あるいは人口ボーナス期ではない。日本全体が思考を転換しないと競争力がそがれていくとの危機感もあった。特にエリート層が奮起して変革しなければ、日本自体が存続できないだろう。変革を手掛ける人が一人でも増えてほしいという気持ちがある。

──個々人としては、市場価値をどうつけるのですか。

私自身は、市場価値を上げるためにという考え方はなかった。今、人工知能(AI)で職業が減ってしまう話もあるが、もともと多様なバックグラウンドがビジネス界では生きてくる。今の会社を飛び出したときにどうなるかが本当の価値であり、それを高めなければリーダーにはなれない。若い人にそういう意識が結構芽生えているのではないか。

素晴らしい人材でも、覇気がなくなることも

──どういう人材を評価するのですか。

人材の「因数分解」ができているわけではないが、ある程度地頭のよいことが前提だ。センスというと語弊があるかもしれないが、物事の大事なことと大事でないことを、いろいろな違った文脈の中で正しく優先順位づけできること。あるいは、いろいろなカルチュラルなやり取りの中で流れや空気を読む感覚も気になる。ただ、それらも年月を経るうちに変わる。すばらしい人材だなと思っていたのが、覇気がなくなったりする。将来への洞察も必要だ。

──意欲と情熱が欲しいと。

スポーツも、勝ちたいと思わなければ懸命には戦わない。今の日本のままだと、東京オリンピックの後、どうなっていくのか。特に経済的に。単純な言葉でいえばもっと生産性を上げるということだが、イノベーションをもっと生み出していかないと生き延びられない。そのためにはリーダーシップを持つ人材が豊富にいる。

──「自己完結」できなければリーダーになれない、ともあります。

リーダーに求められる資質や能力は本当に変わってきた。

別の人にクリティカルな判断を任せるのでは、会社を背負っていけない。中でもコンプライアンスの問題が起きないかどうかのチェックは、自己完結していないと見逃す。

──HPとコンパックの日本法人統合の事例に、リーダーシップの必要性がよく出ているようですね。

どんな企業でも組織間対立や覇権争いがあるものだ。だが、それが顧客のためになるのかといえば、全然ならない。ましてや合併した会社同士は5倍とか10倍の勢いで対立する。リーダーシップが強くないと。ボトムアップで仲良くするなど不可能に近い。

終わりのない長距離

──クリーンルーム、アダプト・アンド・ゴーがキーワードですか。

両社の合併作業のマネジメントで感心したのは、まずアプローチの仕方。合併準備室といえるクリーンルームを軸に、「適応したり順応したりして前進する」という意味のアダプト・アンド・ゴーを原則にしていた。役職をクリーンルームの要員の中で選ばせる。もちろん最後はトップが決めないといけないが。

──ダイエーでは泥臭く……。

政府出資を仰いだ。単なる機関投資家ではなく、国民の血税を使う。リターンをきっちり出せ、株主価値を最大化するのにこの策が最適だ、と示されれば、それに従う。それだけ、株主の存在のウエートは高くならざるをえなかった。

──「美しい戦略」もキーワードですか。

針の穴に糸を通すようなイメージだ。米アップルにおいて、作り上げたエコシステム、ブランド、カルチャーなどが一緒になって傑出したイノベーションが立ち上がることを痛感した。

──マイクロソフトでは。

情報基盤系の製品は割とうまく米グーグルと戦ってきた。働き方改革=マイクロソフトというイメージを作りながら、スタンダードになっている。オフィス365の製品は得意分野だったのでうまくはまった。

マイクロソフトには、クラウドだけは絶対に譲らないという強い覚悟がある。終わりのない長距離を走っているようなもので、一度引き離されたら、追いつき追い越すのは不可能になってくるからだ。

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