日本初「製造小売り」の風雲児 きものを物語で売る – 日本経済新聞

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 全体の7割近くがオリジナル商品で、そのほとんどをメーカーに直接発注しているという呉服大手やまと。いまなお問屋が力を持つという、きもの小売の世界では異色の存在です。業界の流れに抗してきた、やまと会長の矢嶋孝敏氏と経済学者の伊藤元重氏による対談をまとめた「きもの文化と日本」(日経プレミアシリーズ)から、前回掲載「『きもの』から『KIMONO』へ 活路はメンズにあり 」に引き続き、きもの業界の構造問題についての討論を抜粋、ご紹介します。

■なぜSPAだったのか

伊藤 どうしてやまとの場合は、問屋をスキップして、メーカーと直接つながることができたんですかね?

矢嶋 先生はよくご存知でしょうけど、僕はもともと、きもの業界の出身じゃないからね。大学を出てから2年間、イトーヨーカ堂で小売りの基本を教えてもらったあと、役員としてやまとに入社した。でも、4年で辞めることになる。先代社長である父とうまくいかなかったの。向こうは直観で勝負する天才肌、こっちはまず理屈から入るタイプだから、そりが合わなかった。

伊藤 それで子供服のブランドを立ち上げる。

矢嶋 もうやめちゃったけど、「アイドル」という子供服のブランドね。SPAって言葉があるでしょう。製造小売業って訳すけど、企画・製造から手がける小売りのこと。ユニクロを例に出すまでもなく、いまやアパレルでは普通のことになったけど、じつはSPAって言葉を日本で最初に使ったのは僕なんですよ。

伊藤 最初に使ったって、どういうこと?

矢嶋 衣料で世界注目の小売りといえばGAPだった。GAPが日本に上陸するのは平成7年(1995年)だから、僕がアイドルをやっていたのは、そのだいぶ前なんだけど。当時GAPのアニュアルレポートを読んでいたら、SPAって造語を発見して。これは日本でも導入すべきだと。

伊藤 アイドルの時代から、企画・製造まで手がけて?

矢嶋 けっこう苦労したけどね。だって、10店規模でないと、オリジナルのシャツが作れない。30店規模でないと、オリジナルの靴下が作れない。50店規模でないと、靴の木型が作れない……。企画・製造するためには、それなりの規模が必要になってくる。最終的には300店まで増えたから、何とかなったけど。

伊藤 じゃあ、やまとに社長として戻った時点で、きものにSPAをもち込むことを意識していたと。

矢嶋 そういうことです。きものの流通形態を見て、なんて古いんだと思った。洋服はどんどんSPA化して、低価格カジュアル路線を突き進んでいる。きものもSPA化すべきだという問題意識があった。

伊藤 きもの業界の外の人間だから、問題がクリアに見えたわけですね。

矢嶋 値段を下げるのはもちろんなんだけど、ファッション化・カジュアル化したくても、問屋に魅力的な商品がないわけ。フォーマル中心のきものしか置いていない。まあ、8色のゆかたなんて、どこも作ってなくて当然だけど(笑)。ないなら、自分で作るしかない。業界全体の流れに逆らう以上、SPA化は必然だった。

伊藤 問屋をスキップした場合、だいたいどれぐらい値段が下がる感じですか?

矢嶋 非常にアバウトだけど、最終的には半額になると思っていい。少なくともうちは、それぐらいの価格を実現できています。

■ストーリーで売る

伊藤 日本の百貨店って、多くは呉服店が発祥ですよね。三越も大丸も、松坂屋も伊勢丹もそう。地方でいえば熊本鶴屋とか。いまだにきものを売ることに関しては大きな力をもってると思うんですが、百貨店じゃきものを支えられなかった?

宮古上布はいまも手織りで作られる

矢嶋 もともと百貨店は文化の担い手でした。しかし、オンワードが委託取引と派遣店員というシステムをもち込んでから、売り場貸し業みたいになっちゃった。だけど、きものの場合、問屋に委託で商品を預け、派遣店員を出す力があるかというと、そんな力はなくなっている。じゃあ、百貨店自身がリスクを冒せるかというと、それも難しい。逆に、東武百貨店をはじめ、直営の呉服売り場をやめている。きものの販売員を育てるのに5年ぐらいかかるので、百貨店にとっても重荷になってきてるわけ。

伊藤 やっぱり売る側の教育にもコストがかかるわけですね。

矢嶋 それは仕方のない部分だなあ。きものって文化を売っているわけだから。うちなんか全社員1200人のほとんどは産地研修をやっていますよ。たとえば奄美の大島紬と鹿児島の大島紬がどう違うか。同じ紬でも結城紬とどう違うか。そういうことを店頭で説明できなきゃ、どうしようもない。それをお伝えすることで、文化という付加価値がつくわけだからね。となると、宮古上布(みやこじょうふ)を売るときには、わざわざ宮古島へ研修に行かせる。これは削れないコストです。

城間栄順による紅型の帯

伊藤 背景の説明があることで、商品の価値が上がる場合がありますよね。僕の好きなワインでいうと、老夫婦が苦労しながら30年もかかって、ようやくブドウの栽培に適した土を作ったなんていうと、売上が伸びたりする。

矢嶋 ストーリーが必要だよね。うちで紅型(びんがた)の帯を扱ってるんだけど、戦争のために焦土と化した沖縄で、紅型宗家14代の城間栄喜(しろまえいき)がゼロから紅型を復興させる。15代の城間栄順(えいじゅん)が内地のきものを学んで、沖縄の外でも通用するきものを作り上げる。そういう物語とセットで語られないといけない。大島紬でも結城紬でも同じだけど、どういう人がどういう風に作ってるか説明しないといけない。

伊藤 やっぱり高額商品になるほどストーリーが必要ですか?

矢嶋 そうだと思う。10万円以上の商品になったら絶対にストーリーが必要だし、店員にはそれを説明する義務がある。

矢嶋孝敏氏(左)と伊藤元重氏

伊藤元重
 東京大学名誉教授、学習院大学国際社会科学部教授。1951年静岡県生まれ。東大経済学部卒業。ロチェスター大学ph.d。専門は国際経済学。政府の経済財政諮問会議民間議員などを兼務。
矢嶋孝敏
 やまと会長。1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政治経済学部卒業。88年きもの小売「やまと」の社長に就任、2010年より現職。17年に創業100周年を迎える同社できもの改革に取り組む。

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