ロンドン・タクシーが2018年よりEV化。中国資本の現地工場を覗いてきた – d.365 (ブログ)

Home » 04研究開発・生産・物流 » ロンドン・タクシーが2018年よりEV化。中国資本の現地工場を覗いてきた – d.365 (ブログ)
04研究開発・生産・物流, モジュール化 コメントはまだありません



今月のテーマ
#01 ロンドン・タクシーのEV化

2階建てバスと並ぶ“ロンドンの顔”として知られるロンドン・タクシーが、2018年から電動化される。電動化にあたって資本を投入したのは、中国における民間最大の自動車メーカー「吉利汽車(ジーリー・オートモーティブ)」だ。2010年にボルボを買収し、ロンドン・タクシーに加えて、ロータスまでも傘下に収める中国車メーカーが描く自動車の未来像とは?
ロンドンEVカンパニーの正門には、同社のバッジが記された旗の両脇に、母国イギリスと資本元であるジーリーの母国中国の旗が掲げられる。

ロンドンの顔であるブラック・キャブも電動化

とにもかくにも、目をつぶってロンドンの光景を思い浮かべて欲しい。当然のごとく、真っ赤な二階建てバスと、〝ブラック・キャブ〟の相性で呼ばれるロンドン・タクシーが並ぶ景色が思い浮かぶに違いない。そんなロンドンの典型的な光景が、少しずつ未来に向かって動き出そうとしている。

少々、時計の針を戻すことになるが、まず始めにロンドン・オリンピックにあわせて、2階建てバスにハイブリッド仕様が導入された。導入以前には、バスの往来が激しいピカデリー・サーカスでは、ディーゼル・エンジン特有の排ガスの匂いが漂っていたが、今では悪臭はなく、胸いっぱい空気を吸い込む気分になれる。これに先んじて、2003年にロンドン市内に入る乗用車に課金する〝渋滞税〟が導入されたこともあって、市街地の空気は大幅に改善された。

さらに、ロンドン市内を走るタクシーが、排ガスを出さないクルマに限定されるという法律が、2018年から施行される方針だ。この法律が決まったのは2014年のことだった。当時、ロンドン市長を務めていたボリス・ジョンソン氏は、ぼさぼさの白髪頭で、オリンピックのときの市長だったから、テレビで見た記憶がある人も多いだろう。

〝ブラック・キャブ〟の愛称で呼ばれるロンドン・タクシーを、70年以上の長きに渡って生産してきたロンドン・タクシー・カンパニーもまた、電動化電気自動車へと生まれ変わり、社名も「ロンドンEVカンパニー」へと変貌を遂げる。そう聞いて、早速、イギリスへと飛んだ。ヒースロー空港から北西に向かって約1時間半ほど走ったエリアにある英国有数の都市だ。近隣には、ジャガーやベントレーといった自動車メーカーが軒を連ねる英国自動車産業の中心地である。

コベントリーにあるロンドンEVカンパニーの本社工場。

新設されたばかりの工場のエントランスをくぐると、最新の排ガス規制に沿って開発された現行モデルの「TX4」が出迎えてくれた。1908年にオースチン社製「15」から始まったロンドン・タクシーの歴史だが、1997年から40年に渡って製造された「TX」シリーズの印象が強く、EV版もまたTXシリーズのレトロな風貌を色濃く反映するスタイリングだ。

本社のエントランスに飾られている現行モデルのロンドン・タクシー「TX4」は、ロンドンの顔ともいえる存在だ。

接着された軽量ボディに電気仕掛けの心臓部を搭載

近代的な工場に足を踏み入れると、最新の電動モビリティ生産ラインが目に入る。ボルボが設計を手掛けたという新工場は、整然とした生産ラインが組み立てられていた。搭載されるパワートレインは、ひと言でいえばPHVに分類されるが、基本は電気モーターで駆動される仕組みで、通常の交流充電に加えて、50KWでの急速充電であれば、25分で80%までの充電が可能だ。ただし、60KWを生む3気筒ガソリンエンジンを発電機として搭載することにより、600㎞を越える巡航距離を確保するPHVに分類される。

通常の交流充電に加えて、50kWでの急速充電であれば、25分で80%までの充電が可能だ。
通常の交流充電に加えて、50kWでの急速充電であれば、25分で80%までの充電が可能だ。
年産2万台という限られた生産台数ではあるがゆえに、完全な自動化ではなく、手作業も取り入れたフレキシブルな生産ラインの設計だ。自動で動く車台を導入し、大きなパーツの組み立て行程にロボットを導入されるなど、人間の負担を最小限に抑える工夫がなされている。

ボディの軽量化も注目すべきポイントだ。ボディ骨格をアルミ製とし、ボディパネルを樹脂に採用することにより、大型SUVと同等のボディサイズにバッテリと電気モーターという重量物を積むにも関わらず、車両重量を2250㎏に抑えている。アルミのボディパーツの接合は溶接ではなく、接着である。そう聞くと心もとない気もするが、実は航空機にも使われている技術で、接着の方が溶接の2倍もの強度を得られるのだ。

高い品質を保つことにこだわっており、基準となる骨格に各種部品を装着して、品質基準を達成しているか検査している。

工場見学を終えたのち、公道でプリプロダクションモデルに同乗試乗させてもらった。クルマ椅子でも乗り降りしやすいように、電池を床下に内蔵した構造を採用している。エンジン車と比べて、外観は大きく変わらないが、室内に乗り込んだときの印象の違いに驚く。後席はスタッガード式にレイアウトされており、一般的なヨーロッパ人の男性が3人並んで座ることができる。跳ね上げ式の座面を降ろせば大人6人が座れる設計だが、前席を折りたたんだ状態で車椅子を簡単に固定できるのもセリングポイントだ。ナビ画面はタッチパネル式を採用し、反射を減らすなど、ドライバーへの配慮も怠らない。安全基準の進歩も目覚ましい。世界標準のアクティブセーフティを取り入れ、品質基準も引き上げている。タクシーの寿命を15年に設定すると、なんと(!)100万マイルもの走行距離を担保しなくてはならない。

ロンドン市内を走るタクシーの基準として、最小回転半径は4.25mと決まっているため、前輪の操舵は63度もの切れ角を持たせている。一般的なSUVが38度であることを考えると、いかに特殊かがわかる。

年内にもイギリス国内でのタクシーの販売をスタートする方針だ。さらに、オランダのように充電器が街中にたくさん設置されていて、EVやPHVが普及している国への輸出も視野に入れている。すでにオランダからも受注を得ている。

ほぼ最終段階までくみ上げられたロンドン・タクシーのEV仕様。最後にバンパーを取り付けて、完成品検査を受けて出荷される。

電動化を支える中国最大の民間自動車メーカーが手がける

実のところ、ロンドン・タクシーを電動化するにあたっては、3億ポンドを越える投資が必要だった。それを可能にしたのが、中国最大の民間自動車メーカーである吉利汽車(ジーリー・オートモーティブ)だ。

元々、冷蔵庫のメーカーとして設立されたのち、モーター・サイクルの分野に進出し、1997年から自動車を作り始めた。当初はエンジンを生産せずに、天津一汽夏利汽車(第一汽車とトヨタの合弁企業)などから購入していたこともあって、自動車メーカーではないと揶揄する声もあった。実際、筆者自身も、電子部品業界の言葉を借りて、ジーリーのことを〝セット・メーカー〟と呼んでいた。消費者が知るブランド力があり、最終組み立てを行うメーカーという意味である。

ところが、2010年にボルボの乗用車部門を買収して以降、じわじわとジーリー自身も、そして買収されたボルボもまた実力を蓄えてきた。ボルボの最新モデル「XC90」は、最新のモジュール化プラットフォームとパワートレインを持ち、PHVをラインナップする。さらに、Uberが共同で300億円を拠出して、自動運転の開発もスタートした。そして2016年にロンドン・タクシー・カンパニーと、研究開発を担当するエメラルド・モーターズを傘下に収め、今年に入ってマレーシアの国産車メーカーであるプロトンの生産能力と、その傘下にあるロータスの開発力も手に入れた。

技術開発を担当したエメラルド・モーターズのイアン・コリンズ氏。ローバーを経て、マクラーレンで「SLR」の開発に携わった経験を持つ。

わずかな年月の間に周到に買収や提携を進め、世界最先端の開発力を備えた自動車メーカーへと変貌を遂げたジーリーだが、さらなる躍進を目論んでいる。Lynks&Coなる新しい自動車ブランドの設立を発表し、シェアとコネクテッドを前提にした新ブランドを立ち上げ、200万台メーカーへと成長する計画だ。

2030年には都市の人口が2倍になるとの予測もあるほど、世界各地で都市化が進むと考えられる。同時に、高齢化社会も加速する。そんな時代に適した移動手段を生み出すことが、モビリティの未来につながるはずだ。ロンドンに限らず、世界の都市で今後生まれるモビリティの変化から、ますます目が離せなくなりそうだ。

川端由美(かわばたゆみ):環境ジャーナリスト。自動車の環境問題と新技術を中心に執筆するほか、海外の展示会取材も積極的に行なう。

『デジモノステーション』2018年1月号より抜粋。




こんな記事もよく読まれています



コメントを残す