無意識下にある気持ちや行動を刺激する – Campaign Japan

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地域ごとの特性を意識する

人の意識は、意識下(conscious)と無意識下(subconscious)にあるもので構成されている。ハーバード・ビジネス・スクールのジェラルド・ザルトマン教授によると、人の購買決断のうち95%は無意識下で行われるということが、研究で明らかにされているという。

海外で統合マーケティングの仕事をする際には、この“無意識下”に対する理解が非常に大事だ。国民性、宗教、家族構成、習慣など、長い時間をかけて積み重なったこれらの無意識下にあるものを理解し、一つ一つの行動を明確にしないと、海外ではプランニングを進めることができない。

国ごとの例を見てみよう。東南アジアには導入期・成長期の市場が多いため、ビビッドに反応が返ってくる。どの企業も投資意欲が強く、その投資に対するスピードも速い。またデジタルの進化により、若い頃から多くの価値観に触れているため、価値観を許容できる範囲が広がっている。宗教や文化の影響による保守的なイメージとは異なり、実は海外に対しての意識や柔軟性がある人が多い。

これに対して、日本は成熟市場が多いので、現状を維持していきたいという気持ちが強い。リスクはなるべく減らし、慣習にとらわれがちな部分が大きい。日本のようにほぼ単一民族である国は、世界でも本当にまれで特異な市場だ。日本では、前述したような無意識下にあるものが、人々の間で共有されている場合がとても多い。地域ごとの違いや、生活水準の違いもそれほど大きくはないためだ。

最後に欧米、特に私が思春期を過ごしたアメリカは、多民族国家ということもあり、自分と異なる人種・異なる人に対しての許容性が高い。今でこそLGBTという言葉が日本でも世界でも広がっているが、幼い頃から“自分のアイデンティティー”について深く考える機会が非常に多いのだと思う。

海外でのプランニング時には、自分の尺度で物事を判断してはならない。それは簡単なようでとても難しく、当たり前が当たり前でないことを前提に仕事を進める必要がある。そういう意味でも、私は日本人としての前提や考えを持たないように心掛けている。

一方で、日本ならではのサービスのクオリティーや、日本発の商品に代表される細やかな気配りと配慮は、無くても生きてはいけるけれど、あると嬉しいものだ。相手や相手の生活を想像する細やかな部分は“人”の心や気持ちを動かす上で重要である。グローバルでのマーケティングにおいては、実は非常に向いている能力・強みなのではないかと感じている。

目的によって関わり方も異なる

私が、海外でのマーケティングプランニングで具体的に意識している点は「企業のブランドを伝えていきたい、あるいは話題化させたい」のか、それとも「人を動かし、モノを売りたい」のかである。目的がどちらなのかによって、関わり方も異なるためである。

前者の場合は、必ずしもローカルに対しての深い理解は必要ではない。ブランディングにおいては「企業が伝えたいことをいかに分かりやすく伝えられるか」、話題化させる場合であれば「人が“面白い”と感じるポイントをいかに作れるか」という点が重要になるからだ。

しかし後者の場合は、どうやって消費者を動かし、最終的に購買に結び付けるのか、継続購買につなげるのか、という点でローカルに対してのより深い理解が必要となってくる。そして、ローカルに対しての理解を深めるためには、彼らとの対話や議論の積み重ねが必須である。

その際に気をつけなければならないことは、データに頼りすぎないことである。データは基本的な理解のために必要なものだが、数字や調査から分かることは限定される。人の価値観はデータには表れない。例えば「きれい」ということ一つを取っても、日本では「清潔」を、タイでは「ビビッド」を意味するように、捉え方が異なる。自分の前提で話を進めると必ず失敗する。

そして、「なぜ?」と問いかけることで、データからは見えない、無意識下の背景にある行動や理由を知ろうとする姿勢も大切だ。それが消費者の心を動かすときのヒントとなるためである。

人々の無意識下にある行動や気持ちを理解し、刺激する

マズローの5大欲求にもあるように、人を動かすには、その人が今どういった欲求を持っているかを知る必要がある。そして市場の成長度合いによって、「食べ物を得る」という基本的・本能的な欲求が重要なのか、あるいはその次の段階の「安全な生活をしたい」という生活欲求が大事なのかなど、人の欲求レベルは異なる。その欲求を理解する上でも、その人の無意識下に隠れている行動や気持ちを知らねばならない。

次に人を動かす際に大事なのは、具体的にどのような人をどのような気持ちにさせたいのか、どのようなアクションを起こさせたいか、という点だ。すなわちカスタマージャーニーである。
ただし、オンラインとオフラインがシームレスに交わるようになってきた近年、従来のように的確なターゲットに向けて、的確なメディア(タッチポイント)とタイミングでメッセージを届けているだけでは不十分だ。それはその“瞬間”にしか作用しないからだ。

重要なのは、時間軸を定義し、その時間軸で人をどのように動かすか、どのように購買とその先のリピート購買を起こさせるかのパス(道筋)をつくることだ。消費者のジャーニーのステージ(気持ち・マインド変化)に合わせて、各ステージの比重を変えたり、一つのステージから次のステージに向けたパスのブリッジや、オンラインとオフラインの連動をどう作るかがポイントとなる。例えば、自動車の場合はこのステップがとても多く、オンライン・オフラインでの交わりも複雑化している。そのため、各ステップで消費者がどういった条件で商品を選択しているか、すなわちどういう意識で商品を選んでいるのか、を細かく見る必要がある。ステージの比重でいえば、情報収集に重きを置く場合もあれば、試乗に重きを置く場合もある。逆に飲料などはインスタント購買のため、購入までのステップが短い。

このように、一つ一つのアクションや気持ちの変化をつくるには、その人の無意識下にある行動を理解し、それを刺激することが必要となってくる。

無意識下にある行動・気持ちを動かす、トリガーとなるもの

今までの業務で実感した、国ごとの特徴をいくつかご紹介する。

例えば中国における、メンツに対しての意識。どの国でもメンツはあるが、エリアが広大な中国では級都市やターゲットによって、メンツ意識に大きな違いがある。このメンツ意識は、消費者の購買行動にとても大きく影響する。

人との距離の取り方や、コミュニケーションの取り方も国によって異なる。ヨーロッパは他地域と比べると、プライバシーへの配慮や意識が圧倒的に高い。また東南アジアの中でも、ベトナム人は自分の気持ちを表現するのが苦手なシャイな国民性なのに比べて、タイ人には誰に対してもフレンドリーな人が多い。

また、タイでは生まれた曜日によってその人の色が決められていて、そのため色が非常に重要な役割を担う。たとえば、先日亡くなったプミポン王の色は“黄色”だ。そのため、黄色はタイ人にとっては大きな意味を持つ。さらに、他国による支配を受けたことがないという歴史的背景も影響し、物事に対しての考え方は“マイペンライ(楽観的)”な国民性でもある。

一緒に働いていて驚いたのは、タイ人がSNSに非常にアクティブであることだ。男性に比べると女性の方が積極的に情報発信する傾向にある。同じ東南アジアでも、ベトナムは反対に男性の方がSNSに積極的である。

これらのことは全て、それぞれの国のスタッフと話しをする中で見えてきたことである。表面的に見えていることの背景にはさまざまな理由や要因がある。それらを一つずつ理解することで、行動や気持ちを動かすトリガーが見えてくる。

今後への示唆

さまざまな国のスタッフと仕事をする中で、今カスタマージャーニーの意味、統合マーケティングの在り方が大きく変わっていることを実感している。単純に共通のメッセージやアイデアを軸に、メディアやタッチポイントを統合的に組み合わせてコミュニケーションをしていくのではなく、カスタマーの心の動きと変化を購買まで結び付けながらどうジャーニーを構築していくのか、それがこれからのマーケティングにはますます重要になってくるだろう。

その際に、カスタマーと共に成長していくという姿勢が大事だ。カスタマーに気付きを与えつつ、我々プランナーやマーケターも気付きをもらい、試行錯誤を重ねていくことが今後のカギとなる。

岡村実玲氏は、博報堂 MD戦略センター アクティベーション企画局でIMCプランナーとして、国内外におけるブランドアクティベーション、IMCプランニングに従事。

(編集:田崎亮子)




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