ゴーン流「クイックマネジメント」を読み解く – 日本経済新聞

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 カルロス・ゴーン社長が率いる日産自動車。燃費データの不正問題に揺れる三菱自動車との資本業務提携を決め、電光石火のゴーン氏の意思決定に自動車業界に衝撃が走った。なぜ不祥事企業を相手に、これほどのスピードで決断を下したのか。ゴーン氏の経営手法を研究・分析する専門家、早稲田大学ビジネススクールの池上重輔准教授にゴーン流「クイックマネジメント」について聞いた。

■三菱自には日産が必要とするものがある

――日産は三菱自に2373億円を出資し、10月に予定する第三者割当増資を引き受け、株式の34%を取得することで合意しました。ゴーン氏の意思決定をどう見ますか。


早大学ビジネススクールの池上重輔准教授

 「三菱自は事業面では日産が持っておらず、かつ必要としているものを有しており、さらに財務面では健全な会社です。日産としては、『コスト効率のよいかたちで、規模の追求と、対象国市場のカバレッジを拡張する』ことは理にかなっています。財務上の数値に隠ぺいや偽装がないという前提であれば、悪くない投資でしょう。また、日産も三菱自が持っていないものを持っており、相互補完な関係になりうると思われます」

――日産が必要としている三菱自のものとは何ですか。

 「まずはアジア圏での売り上げ、ブランドですね。タイやインドネシアでは大型多目的スポーツ車(SUV)『パジェロ』やピックアップトラック『トライトン』など、いわゆる『ライトトラック』系車種の人気は根強い。次には軽自動車を生産する三菱自の水島製作所(岡山県倉敷市)です。ここでは日産の軽自動車『デイズ』『デイズルークス』を生産し、国内販売の4分の1を占めています。軽自動車は水島で生産するほうが効率的です」

 「実は三菱自は成長性、収益性、生産性などいずれの財務面の指標もとても良好です。2011年度からの過去6年の年平均売上成長率は7.6%、同時期の平均売上高営業利益率は4.6%です。2011年度の2.2%から2016年度の6.1%へと改善しています」

 「健全性の指標である負債資本倍率(DEレシオ)は2001年度の5.4から、2016年度には0.04と改善しており、負債の側面からみても超身軽な会社です。純現金収支(フリーキャッシュフロー、FCF)は2011年度の510億円から2016年度の2100億円となっています。ざっと見ただけですが、純資産が7000億円で、現預金4500億円、フリーキャッシュフロー有利子負債倍率は0.14。財務面から見ると、正直かなり良い買い物なのではないでしょうか」

■三菱自、多すぎる国内販売店 合理化は不可避か

記者会見で握手する日産自動車のカルロス・ゴーン社長(左)と三菱自動車の益子修会長(5月12日、横浜市神奈川区)

――三菱自は燃費データ不正に伴う賠償金額等の発表し、早期収拾を図ろうとしていますが、ほかにも懸念材料は少なくないと思いますが。

 「無論、課題も少なくありません。不祥事による信頼性、コーポレートガバナンス(企業統治)、国内販売には懸念材料があります。例えば、国内販売網は日産は2000店舗程度に対して、売り上げが6分の1の三菱自は約700店舗です。日産と重複しますし、今後、国内市場の縮小を考えると店舗網の合理化などが必要になるのではないでしょうか」

――ゴーン氏の意思決定はスピードオーバーとの声もありますが

 「ゴーン氏のスピード意思決定にはそれなりの意味があるのではないでしょうか。三菱自とはやり方次第ではよいパートナー関係になる可能性がある一方で、他から余計なノイズ、例えば三菱自の買収に乗り出す競合他社が出て来る懸念があったのかと思います。なので、その前に手をあげておくというインセンティブが働いたのかもしれません」

 「日産は焦って手をあげたとは思いません。それでは質の良い意思決定にはつながりません。日産はある程度の質で速く意思決定をし、動けるような体制を構築してきたのです。ゴーン氏は優れた『クイックマネジメント』を開発し、磨き上げてきました。例えば2011年の東日本大震災対応をとっても日産は自動車各社の中でも、最も対応が早く生産が再開された企業です」

■ゴーン氏の即断即決、三菱自との共同出資会社がカギ?

 「復興には明確な優先順位基準を持って意思決定できるトップが必要です。大胆にして細心な意思決定のためには、ある程度その素養のあるトップが経験を積んでいる必要がありますが、日産にはその土壌が積み重ねられていたということが今回のスピード決定の前提の一つです」

池上准教授が司会を務めたゴーン氏の人材養成講座

 「そもそも日産と三菱自は軽自動車で共同出資会社を設立するなど提携関係にありました。三菱自の実力はある程度把握できていたと思います。この合弁会社の社長は日産出身の遠藤淳一氏です。遠藤氏は米国屈指のビジネススクール、ペンシルベニア大学ウォートン校出身で、ビジネスセンスとバランス感覚のある方です」

 「内部でどのような議論が交わされたかは測りかねますが、日産の役員も経験した遠藤氏が、共同出資会社の社長としてある程度三菱自の社風を体感していたことが意思決定を加速化する材料になったと想像します。逆に言えば、こうした人材を合弁会社の社長に送り込んでいたこともポイントでしょう」

■クイックマネジメントを支えるシミュレーション

 「事前のシミュレーションもあったかと思います。(ゴーン氏による日産再生計画の)リバイバルプランの最中に中国の東風汽車との合弁をつくることは大きなリスクではありましたが、本体が傾かない範囲でどの程度までリスクをとれるかのシミュレーションはかなりした上で合弁投資を決めたと聞いています」

 「将来想定しうる手を事前に幅広にシミュレーションしておくこともゴーン氏の経営手法の一つと思われます。三菱自だけでなく、他の自動車メーカーも含めて、どのような再編・提携シナリオがあり得るかは常日ごろ、シミュレーションしていたはずです。そうした常日ごろの準備があって、急な事象に素早く対処できたかとも思われます。このような事前準備がクイックマネジメントを実現します」

――三菱自には企業体質など様々な課題があると思いますが、提携が成功する要件は何でしょうか

 「確かに、三菱自は過去に何度も不祥事を起こし、経営危機に陥り、今回も不祥事に至っています。企業体質の改善は一般に困難です。資本提携した独ダイムラークライスラー(当時)との提携解消に追い込まれ、その後、他社との提携交渉はいずれも実現していません。そう考えると、もちろん改善は簡単ではありません。しかし、現在の三菱自トップの益子修氏は、業績・財務面では改善を繰り返し、実績を上げました」

■不祥事の土壌に、三菱自の無理なストレッチ戦略?

 「戦略に無理がある会社はどこかにしわ寄せが来て、そのしわ寄せが不祥事につながる可能性が高くなります。日本企業の戦略は元来、自社が持つ強みとする資産に立脚して戦略を構築しようという『リソース・ベースト・ビュー(Resource Based View)』型でした。つまり、自社の強みに立脚して高い目標を掲げ、多少無理してがんばらせる、ストレッチさせるのが基本戦略でした。「自社組織がギリギリ可能な高い目標設定をすることによって、その戦略が可能としていたのです」

 「三菱自の規模で、現行の製品・地域ポートフォリオを持つことは、あまりにストレッチしすぎて、合理性のない戦略になっていたと思います。おそらく日産との提携でポートフォリオが再編され、不祥事をしなくてもよい程度の戦略に再設定されると思われます。そうすると、不祥事をしてまでなんとかつじつまを合わせようというインセンティブがなくなるかもしれません」

 「余談ですが、日産と仏ルノーとの提携から15年以上がたっているので日産組織も一部官僚化が進展してきていてもおかしくありません。今回の三菱自との提携をうまく刺激剤にすると日産の組織に再度緊張感をもたらしポジティブな相乗効果が生まれる可能性もあります」

池上重輔氏(いけがみ・じゅうすけ)
1989年、早稲田大学商学部卒業。英国ケンブリッジ大学ジャッジ経営大学院でMBA(経営学修士)修了、一橋大学で博士号(経営学)取得。ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)などを経て2016年から現職。日産財団が主催するリーダーシップ養成講座を指導し、ゴーン氏への代表質問役などを務めている。

(聞き手は代慶達也)

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